謎の美女、吉川さんは、時々私の夢の中に出てくる女性だ。
身長は170センチくらい。
スタイルは洗練されていて、高めのヒールを履いている。
薄栗色の長い髪を綺麗にまとめ、いつもグリーン系のスーツを着ている。
もちろん美人だが、日本人としての美しさに満ちた顔をしている。
とても若く見えるのに、何故か私と同い年で、三人の子持ちというワーキングマザー。
それが吉川さんだ。
今日も吉川さんは、私の平凡な夢の中にいきなり現れた。
田舎の原風景がいつの間にか、アジアンテイストな一角に変貌した。
吉川さんは体の線の出る紫のドレスを選んでいた。
溜め息が出るほどそれは彼女に似合う。
「ねえ、ごはんまだ?」
自分もいつの間にかスーツを着ていた。
それは家にある古びたこげ茶のスーツで。自分は安いローヒールを履いていた。
髪は下ろしてすいただけ。
化粧にいたってはリアルと同じ、ノーメイクだ。
戸惑う私の手を取って、吉川さんが歩き出す。
普通の主婦の会話。
けれども彼女が話す言葉は、キラキラきらめいて、辺りの店先に明かりを点していくようだ。
彼女に導かれるようにして行った先は、川縁の一見トタン作りの広いレストランだった。
昼を済ませてきたと誤魔化した私に、吉川さんは自分の分以外にそっとスイーツを注文していた。
戸惑う私にウインクして、「あんたの分よ」と言う。
「そろそろ面白いものが見られるよ」
彼女が言うが早いか、いきなり大粒の雨が屋根を叩くような音がした。
床だ。
料理の入った器が、テーブルごと揺れている。
テーブルクロスに時折、ぼこぼこと何かのシルエットが浮かぶ。
どこから入ってきたのだろう。
床一面に魚の群れがいた。
必死で跳ね回り、飛び上がり、最後には何もなかったかのように床の隙間に消えていった。
「これをね、あんたに見せたいなあって思ってたの」
吉川さんは少女のように笑った。
私も笑って、その見慣れないスイーツを口にした。
途端に目が覚めた。
吉川さんは何者なんだろう。
本当に忘れ書けた頃、突然に私の夢に現れる。
私がこうありたいと願っている理想なんだろうか。
だとしたら、理想が高すぎる。(笑)
見飽きた梅雨空の一日も、なんだか気楽に過ごせたのも吉川さんのお陰かもしれない。
ありがとう。
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